2017年7月23日日曜日

「発達障害にできる仕事」の罠

前回は、発達障害者は自身の障害の具体的な症状がわからないという内容で記事を書きましたが、今回はその続きです。
今回は、自身の障害の具体的な症状がわからないとどういう困ったことが起こるか書いていこうと思います。

(1)就職活動編

就職活動と言えば面接です。企業の障害者雇用の面接に行くと必ず質問されるのが「あなたの障害はどうのようなものですか?弊社はどのような配慮をすれば良いですか?」というものです。
しかし、自身の障害の具体的な症状がわからない発達障害の人は頭を抱えます。当たり前ですね、説明できないんですから。
大体の人は、辛うじて現段階でわかっている部分のみを答えるという感じにならざるを得ません。
あと、「出来ない作業はありますか?それはどのような作業ですか?」という質問も困ります。
自身の障害の具体的な症状がわからないので、経験の無い作業は出来るか出来ないか判断できません。やってみなければわからないのです。
そんな状態ですから、面接官の質問にスラスラと答えることが出来ず、相手に悪印象を与えて不合格になることが多いのではないでしょうか。

(2)就労編

なんとか就職しても試練は続きます。
上司から新しい未知の仕事を与えられて「この仕事はできる?」と聞かれても自分自身出来るかどうかの判断が出来ません。もしかしたら出来るかもしれませんし、出来ないかもしれません。強いて答えるのならば「やってみないとわかりません」としか言えません。
そして実際にやってみて、出来なかったら「無理です、出来ません」と答え、自身の出来ないことリストに新たな項目が加えられて終わりです。
逆に、出来た場合は上司に「出来ました」と報告して、自身の出来ることリストに新たな項目が加えられて万々歳!良かった良かった。
・・・と思いますよね? 出来たんだから何も問題ないと思いますよね?
もちろん、発達障害者本人にその仕事を普通に遂行する能力があれば問題ありません。ようは、健常者と同じロジックでできていれば良いのです。
ところが、そうでない場合があります。発達障害者本人にその仕事を遂行する能力が無いにもかかわらず仕事が出来てしまった場合です。
『どういうこと?』と思われるかもしれませんので、ここで一つ例え話をします。

ある会社の同じ職場に A さんと B さんの 2 人の社員がいました。
A さんと B さんはそれぞれ電卓を持っていて、A さんの電卓は普通の電卓。B さんの電卓は掛け算のボタンの無い電卓です。
ちなみに、彼らの持っている電卓は持ち主本人にしか見えません
ある日、彼らの上司が A さんと B さんに新しい仕事の指示を出しました。

上司:『10 × 10 の計算をしろ』

A さんは「[1][0][×][1][0][=]」で答えを出しました。
B さんは「[1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][+][1][0][=]」で答えを出しました。
そして、

A さん:『100 です』
B さん:『100 です』

と報告しました。
それを聞いた上司は『2 人とも問題なく同じようにできているな』と判断しました。
次の日、上司は A さんと B さんにまた新しい仕事の指示を出しました。

上司:『100 × 100 の計算をしろ』

A さんは「[1][0][0][×][1][0][0][=]」で答えを出しました。
B さんは「[1][0][0][+][1][0][0][+]・・・(省略)・・・[+][1][0][0][=]」で答えを出しました。
そして、

A さん:『10000 です』
B さん:『い・・・10000 です。(疲労困憊)』

と報告しました。
それを聞いた上司は『2 人とも問題なく同じようにできているな』と判断しました。
次の日、上司は A さんと B さんにまた新しい仕事の指示を出しました。

上司:『今日から毎日、100 × 100 の計算をしろ』

A さんは毎日「[1][0][0][×][1][0][0][=]」で答えを出します。
B さんは毎日「[1][0][0][+][1][0][0][+]・・・(省略)・・・[+][1][0][0][=]」で答えを出します。
そして毎日、

A さん:『10000 です』
B さん:『い・・・10000 です。(疲労困憊)』

と報告し続けました。A さんは涼しい顔で、B さんは疲れた顔で。
B さんはとても疲れていましたが、『疲れているのは A さんも同じ! A さんも同じことができているのだから自分も頑張らなくては!」と思い、毎日頑張りました。
そうです。B さんは自分の電卓に掛け算のボタンが無いことを知りません。A さんの電卓に掛け算のボタンがあることも知りません。いえ、そもそもこの世に掛け算のボタンが存在することすら知りません。
だから、B さんは自分と A さんは同じ条件だと思い込んだまま頑張り続けました。
しかしある日、限界が来ました。B さんが電卓のボタンを押そうとしても指が動いてくれないのです。
B さんは上司に相談しました。

B さん:『すいません。この仕事は大変すぎて私にはもうできません。』

しかし上司は言いました。

上司:『何を言っているんだね。君は A 君と同じようにできてるじゃないか。できないなら仕方が無いけど、A 君と同じように出来ているのにやりたくないというのは怠慢だよ。それは認められない。』

上司はとりあってくれませんでした。
そうです。B さん本人だけでなく上司も B さんの電卓に掛け算のボタンが無いことを知らないのです。
また、B さん自身も自分の電卓に掛け算のボタンが無いことを知らないので、上司に反論することができませんでした。
そして、B さんは『自分は無能な人間なんだ』と思い込み、うつ病になって会社に行けなくなってしまいました。

まず補足ですが、物語中の A さんは健常者で B さんは障害者です。そして、B さんの電卓に掛け算のボタンが無いのが障害の具体的な症状です。
B さんは本来掛け算をする能力が無いのですが、別の能力「足し算」で補っています。
そうです。これが「その仕事を遂行する能力が無いにもかかわらず仕事が出来てしまった」状態です。
発達障害の人の中でも比較的能力の高い人に発生しがちで、その仕事をする能力が欠如しているから本来はできないはずなのに他の能力を使ってできてしまう場合があるのです。
とは言え、例え別の能力を使っていたとしても疲労度が本来の能力を使う場合より少なかったりする場合は問題にはなりません。でもそう都合良く行くことは極々まれで、大抵は本来の能力を使うより疲労します。
そしてこの問題の最も厄介なのは、実際に発達障害に仕事をさせて出来たときにこの問題が起きているかどうかはぱっと見ではわからないということです。
ぶっちゃけ本人もわかりません。
でも、これを知らないと物語中の B さんのようにうつ病になることもありえます。まさに「発達障害にできる仕事の罠」です。
ではどうすれば良いかというと・・・。はっきり言ってこれをやれば一目瞭然!な方法はありません。
ある程度の期間仕事をさせて、極端に疲労する仕事は外す程度のことしかできません。
何か、障害の具体的な症状を可視化する装置、あるいは手法とかがあればこのような苦労は無くなるのでしょうが、現状では存在しません。

(3)総論

というわけで、世の中の発達障害を雇用する方たちに知っておいてほしいのは、

「出来るからといって、健常者と同じようにできているとは限らない」

ということです。
どうか、心に留め置いていただければと思います。

2 件のコメント:

sheephuman さんのコメント...

別ルートで仕事が出来るというのは希望だと思う。
道具を十分に使うとか、待ち時間を与えて貰うなどが許されれば自分の癖とスペックを調整する形で仕事は出来る。
 待ち時間とか実際贅沢だと思うが。

しましま郷 さんのコメント...

コメント、ありがとうございます。管理人のしましま郷です。

別能力で補えるのは本来良いことなのは確かですね。
1 回こっきりで臨時に入った仕事とかに対応しなければいけない場合に救われることがあります。
ただ、別能力で補ってるために健常者より疲労が激しいので、「じゃあ、明日からも頼むわ」と言われると悲劇に早変わりします。
相手が偉い人だと「毎日なんて無理です」と言っても全く聞いてくれなかったりしますね。
その仕事が 1 回でもできてしまうと、時間を与えてもらうなどの配慮も許してくれなくなってしまったり。
出来る仕事の種類が多くなることは良いことなのですが・・・。

何はともあれ、このブログはそんなに頻繁に更新はできないかもしれませんが、また来ていただければ幸いです。